詩集 中에서 拔取
くじけないで
ねえ 不幸だなんて
溜息をつかないで
陽射しやそよ風は
えこひいきしない
夢は
平等に見られるのよ
私辛いことが
あったけれど
生きていてよかった
あなたもくじけずに
母
亡くなった母とおなじ
92歲をむかえだ今
母のことを思う
老人ホームに
母を訪ねるたび
その帰りは辛かった
私をいつまでも見送る
母
どんよりとした空
風にゆれるコスモス
今もはっきりと覚えて
いる
あなたに
出来ないからって
いじけでいてはダメ
私だって九十六年間
出来なかった事は
山ほどある
父母への孝行
子供の敎育
数々の習いごと
でも 努力はしたのよ
精いっぱい
ねえ それが
大事じゃないかしら
さあ 立ちあがって
何かをつかむのよ
悔いを
残さないために
忘れる
歳をとるたびに
いろいろなものを
忘れてゆくような
気がする
人の名前
幾つもの文字
思い出の数々
それを 寂しいと
思わなくなったのは
どうしてだろう
忘れてゆくことの幸福
忘れてゆくことへの
あきらめ
ひぐらしの声が
聞こえる
さびしくなったら
さびしくなった時
戸の隙間から
入る陽射しを
手にすくって
何度も顔に
あててみるの
そのぬくもり
おっかさん
がんぼるからね
眩きながら
私は立ち上がる
九十六歳の私
柴田さん
何を考えているの
ヘルパーさんに
聞かれて
困ってしまいましだ
今の世の中
まちがっている
正さなけれぼ
そう思って
いたからです
でも結句溜息をついで
笑うだけでした
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